11月12日 曇り。
ひたすら灰色の空だった。灰色空の下で歩きながら食べるミスタードーナツは美味しかった。それが今日のお昼ご飯。
さて、めちゃ久しぶりに日記を更新する。
というのも、昨日11月11日(土)、学生時代の友人「北原有」氏が「文学フリマ東京37」というイベントに出店したからだ。
彼は短歌をやっていて、イベントで歌集「メロ・メロウ・メロディ」を出したのである。すごい。拍手だ。
この真ん中の冊子。
ちなみにイベントの戦利品は3冊だけ。貧乏人なので…。
今回はそんな彼に敬意を表して「メロ・メロウ・メロディ」の感想を書き連ねようと思い、ここを更新するに至った。
あと、この友人が俺の文章を読みやすくて良いと褒めてくれたからという理由もある。というかそれが7割だな。褒められ慣れてないから調子乗っちゃう。
本題といこう。
この歌集「メロ・メロウ・メロディ」はなんと175首も載っている。歌人北原有渾身の175首であることは間違いないだろう。なんせ記念すべき第1冊目の歌集ですから。
今回はその中から俺が好きだなと思った10首くらいを選び、その感想を語っていく。
それでは、対戦よろしくお願いします。
「公園でたまごサンドを食べている俺の背中はひだまりまみれ」
この歌は歌集の初手に置かれている。短歌ほぼ初めての俺は詠み手が北原って認識が強くある状態だったので、「俺」が北原で描写された。あったけぇ公園でたまごサンドを食べてる北原はとても俺の中のイメージ通りである。
俺は2年間くらいしか北原と接してないから、いまだに北原はサブカル野郎のイメージなのである。サブカル野郎は陽に当たりながらたまごサンドを食うよ、平日に、1人で。1人だよ。なぜなら俺は北原に独り身でいて欲しいからである。
北原を知らない人からするとどういう感想になるのかも気になる。
「事故物件サイトを見てる カーソルを君が出そうな場所に合わせて」
亡くなったであろう「君」が出そうな事故物件って、「君」が自殺しそうな家ってこと?という読み取り方をしたい。一緒に死のうか…。
いやまぁ、実際はこんなひねくれた読み方はせず、死んだ彼女に会えそうな家を探す死別の歌、でもちろん問題ない。彼女の気に入りそうな家を、事故物件というジャンルの中で探すわけだ。そこに住めば死んだ君と出会えるんじゃないかという有り得ない期待をしながら。良い歌だァ…。
「心霊スポット」とかじゃなくて「事故物件」にしているところが、同棲前に死んだ「君」と一緒に住む場所を探しているようにも捉えることが出来て良き。好きな単語センスだ。
色々な妄想捗る俺の好きな1首である。
とか思ってたらこの歌に関する解説もとても良かった。解説集は購入者特典、羨ましいでしょう(言えば普通にくれると思う)。
「子供から大人になるにつれ虫に触れなくなるパターンがある」
共感したのでチョイス。まさに俺はこのタイプ。
昔は飼いたいとワガママを言い買ってもらったカブト虫、今じゃゴキブリとさして変わらない印象だ。不思議だよなぁ。ムシキングとか好きだったのになぁ。
ちょうちょの羽を毟っていたし、ありんこの足をもぎ取ったり、ダンゴムシを何匹か木の枝に刺して串団子を作っていた。最悪なガキだ…触れなくなって当然なのかもしれない。
「カプセルを潰せば拡がってゆくよ記憶が感情になる」
カプセルってタバコのカプセルでいいのかな。最近はカプセルコーヒーとかあるからさ。まぁここではタバコでいきます。
シンプルイズベストな失恋の歌という印象だ。相手の吸ってたタバコの匂いが記憶を呼び覚まし、記憶が感情を呼び起こす。切ない。
ちなみに、特定の香りと何か事象や記憶が結びつく現象を「プルースト効果」といいます。某ラノベの想い人に記憶されない系ヒロインで知った。報われてくれ…食蜂…。
話が逸れました。
ただシンプルイズベストゆえに、例えば、いくつかの短歌の中から北原の詠んだモノを当ててみなと言われ正解がこれだったらキレる。なぜなら北原じゃなくても詠めそうだから。でも良い歌だ。多くの人に届きそうな歌。彼にだって少しくらいシンプルイズベストな面があってもいい。
追記:詠み手に聞いたらタバコのカプセルで合ってた。
「読みかけの本がおそらく残ってるあなたの部屋にいつかのままで」
こちらもまた素敵な失恋の歌。「おそらく」「いつかのまま」なのが未練がましさが顕れているように思えて俺の好きな部分。
希望的観測で、別れた想い人の中に、理想の自分そのままが少しは残っていて欲しいという未練がこの歌にはある、と読んだ。
俺は、失恋は重く苦いどろりとした粘着質なものであるべき、と思ってる(そうならない失恋はまず恋ですら無いという過激思想すらある)からこういった感想になるのだけど、解説集より冬野水槽さんの「"祈り"がある」という説明でそんな過激思想は身を潜める。北原の短歌の印象としては冬野水槽さんの解説の方がよっぽど正しいというか、ピッタリハマると思った。未練より祈りと言った方が綺麗。素敵な表現が出来る人の周りには素敵な表現が出来る人間が集まるというのか…!
「最高の夜にするのは俺たちで他には何もいらないだろう」
愛を語る短歌が多い中で、爽やかな友情を感じさせる1首がこれだ。いや、友情もまた愛の1つと言えるから、これもまた愛を語ってるといえるか。
夏の飲み屋の帰り、もしくは二軒目への道のり、夜中にテンション高く肩組んで歩く男2人が見える見える…。
「既視感はあるけど君とではなくて知らないふりの変な相槌」
こぉれは北原ぽくて好きだ。北原が実際にしてそうだからだ。してそうなんて不確定じゃなくていいな、絶対してる。
この歌と離れたページにあるこちらの歌もここで紹介しておきたい
「気づかないふりをするのは簡単でそういうときのふわっとした風」
………とても良いと思いませんか。
「寝ていたら君はどっかに行っちゃった 室外機から出る風の音」
北原貴様こんな経験したことがあるなら許せへんぞと思うくらい好きなシチュだ。こんなことは現実にあっちゃならん。本人に聞いたら経験したことなかった。よかった。
俺がしたい失恋の理想形かもしれません。素敵すぎる。さらにこの「君」が歳上の女だとなお俺得。
電気のついていない、太陽が出るか出ないかのぼんやりした空気とぼんやりした寝起きの頭で室外機の風の音だけを認識する一人ぼっちのワンルーム。「君」がいたら室外機の風の音なんて気にも留めなかった。それは今まで聞こえていても意識しない音だったのだ。
あと、個人的にはこの短歌が歌集の中で1番文学的だなとも思った。
とても俺に刺さった短歌です、☆5。
「出来るだけ綺麗なことも言っておくこれは私の人生だから」
名刺の裏に歌いつけたくらいだから北原も気に入ってるんだと思う。俺も好き。
綺麗なこと「も」なのが良い。綺麗なこと「だけ」じゃないんだよな。その1文字の表現で人生は綺麗事だけじゃないってのを感じさせるし、だからこそ綺麗なことも口にしていきたいんだろう。それと同時に、綺麗でないことも言っておく宣言でもある。いいね。
あと、「言っておく」って言い回し良い。俺が北原の言い回しが好きだというのはこういうところに顕れていると思った。上手く言えんけど、何となく北原のこういう言い回し好きだなって学生時代にも感じていた部分が出ている。
「桃を剥くきみのうなじがどこまでもわたしのものであればいいのに」
最初に連想したのは病院のお見舞い。というのも果物を剥く姿をわざわざ視認するのってお見舞いかなぁって俺は思うから。そして俺はどうしたって「きみ」は男を指す単語で「わたし」は女性を連想するタイプの人間なので、この歌には病院のベッドに余命が僅かな女の子がいて、桃剥いてる彼氏がいるのだ。自分が亡くなった後、彼氏君には新たな出会いがあるかもしれない、そんなのは嫌だなぁずっと私だけを引きずって欲しいなぁという、仄暗い願いを感じた。「どこまでも」ってのが、俺にはそれを思わせる表現だからである。もろちん感じ方は人それぞれ。俺の中での「どこまでも」はプラスかマイナスかで言えば後者なのだ。
というかここまで妄想を書き連ねておいてなんだが、病院で桃は剥かないかもしれない。お見舞いエアプなので許して欲しい。
総評
解説本を読んでからあぁなるへそ愛が主軸かと思うくらいには雑に読んでしまったのだが、確かに言われてみれば愛がある歌が多かった。失恋の描き方にオタク味を感じるのは俺がオタクだからそう読み取っちまうのが7割、北原の構成要素にオタクもあるからが3割だろう。あと、上記では触れなかったのだが、「ライフイズビューティフル」の6首はどれも北原らしくて良かった。北原の感性というか、彼の世界の見方を味わえる6首で非常にぐーである。
また、表紙デザイン、および合間に挟まる挿絵もとても素敵な歌集であった。歌集の雰囲気を引き立てている。特に「スーパーカー」で載せられている挿絵など絶品だ。そのうち別のイベントとかで再販するだろうし、気になったらぜひ手に取って欲しい歌集である。同人誌ってのは一期一会だから。気を逃すと手に入らないので…。
4000字近く書いちゃった。今までで一番長いかもしれません。
終わり